ホーム > 第61回地域農林経済学会大会

大会セッション 10月22日(土)[13:00~16:00]

本大会では、3会場において大会セッションを開催することとした。大会セッションは、学会員に広くテーマ等を募集し、それぞれのコーディネータが中心になって組織したものである。多くの会員の参加とディスカッションを期待したい。

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第1セッション:「環境変動下における大豆生産・流通の課題と方向」
   コーディネータ:梅本 雅(中央農業総合研究センター)

 大豆(Glycine max)は、豆腐、納豆、味噌、醤油の主な原料であり、日本人の食生活に欠かせない農産物である。また、品質面で優れていることや、消費者の遺伝子組み換え大豆についての拒否感から、原料としての国産大豆への期待は大きい。一方、生産面では、食料自給率の向上、あるいは、土地利用型の作物として農地の有効利用という観点から、また、水田作経営や畑作経営における収益部門としても、大豆作の重要性は高まってきている。
 しかし、そのようなわが国の大豆作に対する期待にもかかわらず、問題点は多い。第一に、大豆の生産は不安定であり、技術のみならず、転作耕作受託に伴う土地利用の制約もあり、安定した供給体制が構築されているとは言えない。海外と比べても大豆の収量水準は低く、不安定である。第二に、水田作経営から見た問題として、収入の多くを助成金が占めるため、生産者に対する増収へのインセンティブが働きにくいことがある。また、流通や品質評価等に関わる問題も多く、消費者や実需者のニーズが生産者に的確に伝わらないなど、大豆生産振興を誘導するという点で効果的な仕組みとなっていない。一方、国際的に見た場合、大豆生産に対する認識はわが国とは大きく異なっており、その中で、中国などの大豆需要の増加から需給バランスが逼迫し、中長期的な国際価格の高止まりが懸念される状況にある。 そこで、本セッションでは、わが国の大豆生産の現状や動向を整理した上で基本的な論点を提示し、それに沿って、主に、国際需給、大豆生産技術、大豆加工品の消費、流通構造と品質評価、大豆作の収支と経営展開、さらに、大豆加工企業の製品戦略という6つの切り口から報告を行い、セッション参加者との議論を通じて新たな大豆フードシステムの構築に接近したい。

梅本 雅(中央農業総合研究センター)
「座長解題-大豆に関する経済分析の意義と論点-」
増田忠義(総合地球環境学研究所)
「世界の大豆需給の構造変化と日本市場へのインパクト」
島田信二(中央農業総合研究センター)
「大豆作技術の現状と課題-水田大豆の低位不安定性の要因と改善方向-」
田口光弘(中央農業総合研究センター)
「大豆加工製品の消費動向とスキャンデータによる商品選択分析」
笹原和哉(中央農業総合研究センター)
「大豆生産流通の特徴と制度的課題-大豆品質評価に関する不整合と対応方向-」
梅本 雅(中央農業総合研究センター)
「大豆作を巡る制度変化と大豆作経営への影響」
後藤一寿(九州沖縄農業研究センター)
「大豆における多様な用途別需要の開拓と企業の製品戦略」

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第2セッション:「アフリカ小農問題とモラルエコノミー:地域間比較の視点から」
   コーディネータ:池上甲一(近畿大学)

 長らく、アフリカは「開発協力」の対象として把握されてきたが、多額の援助をつぎ込んだ割にはうまくいかなかったと評価されることが多い。とくに、アフリカ農村は「発展」しない典型だと考えられている。しかし最近では、「脱発展」「脱成長」が今後の人間社会の在り方として措定する考え方も力を増している。「発展」しないアフリカ農村は、その根底においてこうした「脱発展」「脱成長」の志向と通い合うかもしれない。こうした文脈からも、アフリカ農村を構成する小農たちの豊かな意味世界と社会の編成原理を解き明かすことが求められている。
 このテーマセッションでは、内的にはモラルエコノミー論を軸としてアフリカ小農社会の編成原理を読み解き、その意味を相対化するために東南アジアとの比較を試みる。次に、外部社会とのつながりをいかにうまく形成して、市場経済やグローバリゼーションとの折り合いをつけていくのかという観点からいわゆるフェアトレードの取り組みを議論する。モラルエコノミー論とフェアトレード論の接合によって何を描き出すことができるのかを、アフリカと東南アジアの小農世界を舞台に討議したい。この作業は、ひいては日本の小農世界を読み直すことにもつながるだろう。会員の積極的な参加を期待したい。

池上甲一(近畿大学)(座長兼)
「アフリカ小農問題からみる関係性の論理―モラルエコノミーとフェアトレードを素材に-」
杉村和彦(福井県立大学)
「アフリカ小農問題とモラルエコノミー」
坂井真紀子(緑のサヘル)
「農牧民の変容とモラルエコノミー」
津村文彦(福井県立大学)
「家畜飼養におけるモラルエコノミーの地域間比較―アフリカと東南アジアのあいだ―」
鶴田 格(近畿大学)
「モラルエコノミー論からみたフェアトレード:アフリカと東南アジアを事例に」
辻村英之(京都大学)
「キリマンジャロの農家経済経営とフェアトレード:利益最大化と家計安全保障」

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第3セッション:「途上国農村経済研究の新潮流―その課題と展望」
 コーディネータ:福井清一(京都大学)    座長:浅見淳之(京都大学)

 世界経済が激動する中で発展途上国における政治経済的な状況が大きく変化し、開発経済学も変化を余儀なくされている。こうした現下の潮流のもと、開発のミクロ経済学は、地域研究、社会心理学などの手法、視点を取り入れ、従来の枠を越境し拡張しつつある。
 近年における開発のミクロ経済学、とりわけ、農村の貧困問題を経済学的視点から研究する分野では、人々の戦略的行動の検討が不可欠であり、そのためには、人間の心のはたらきにまで踏み込んだ分析が必要であるとの認識が共有されるようになっている。本シンポジウムでは、このような急速に発展しつつある行動経済学の成果や実験ゲームの手法をはじめ、新しい手法・視点を取り入れた諸研究を紹介し、途上国農村研究における新潮流と、その課題、および、さらなる展開の可能性を検討することを主な目的とする。
 そのため、本シンポジウムでは、まず、開発のミクロ経済学の分野における行動経済学や実験ゲームの導入など、新しい分析手法の意義と課題について報告を行う(第一報告)。次に、現在注目を集めている「貧困家計における子供の健康と教育」、「出稼ぎ労働と農村経済への影響」、「農業技術革新の新しい動向」、の3つのトピックスについて、文献レビューを踏まえた報告を行う中で(第二報告~第四報告)、このような新しい分析手法を取り入れることに、どのような意義があるのかを検討する。
 シンポジウムでは、各報告者による報告の後、二人のコメンテーターによるコメント、一般参加者からのコメントを踏まえて討議を行い、コーディネーターが総括を行う予定である。
 このような試みが、途上国を対象とした開発ミクロ経済学の成果を日本の農林業、農山村を基礎に構築されてきた地域農林経済学に取り入れる契機になれば、その意義は大きいと考える。

福井清一(京都大学)
「開発ミクロ経済学の新潮流」
三輪加奈(釧路公立大学)
「農村貧困家計における子供の健康と教育」
矢倉研二郎(阪南大学)
「出稼ぎが農村家計・農村経済に与える影響」
不破信彦(早稲田大学)
「農業の技術革新:最近の文献動向とSRI稲作技術導入実験の事例」

大会講演:10月22日 (土) [10:00~12:00]

講演1:TPPの動向と日本農業の立ち位置
    
   鈴木宣弘(東京大学大学院農学生命科学研究科)


講演2:これからの東アジア経済と日本農業
     -中国経済を中心に-
    
   厳 善平(同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科)

リーマンショック以降、先進国経済の停滞、アジアなどの経済的発展を背景に、TPPをはじめ世界経済の新たな枠組みづくりの模索が始まっている。新たな枠組みの中で、日本農業はどのような位置を占めるべきか、東日本大震災と原発事故という大きな出来事も踏まえながら、多面的な視点からの検討が求められているといえよう。

 本大会では、これまでのシンポジウム方式に替えて大会講演として、それぞれの分野の専門家に話題提供と問題提起をしてもらうこととした。講演1では、鈴木宣弘氏から、TPPをめぐる最近の動向とその問題点、これからの日本農業の占めるべき位置についてご報告いただく。また講演2では厳善平氏に、躍進著しい中国経済の動向を中心に、これからの東アジア経済の展望、そのもとでの日本農業の位置についてご報告いただく。